漂う心

精神科に通院する女の奇妙な生活

*Admin

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同情なのか愛情なのか・・・

暫くすると、アパートの鍵を開ける音がした。

拓也が来たらしい。

全身びしょぬれの上にビール片手・・・うつろな眼をした私に彼は言葉も出なかったようだ。いや、ただただ呆れていたのかもしれない。

無言で食卓の上にある、吸殻がいっぱいの灰皿を片付け始めた。
そしてベレンダに干しっぱなしの湿った下着とジャージを手にすると私の服をぬがし、まるで介護士のように私の着替えに取り掛かった。

沈黙を破るように一言「今度は、いつ病院へいくの?」と尋ねた。「2週間後」
その日は、ただそれだけの会話だった。

若いころ憧れていた、お姫様だっこをして彼は私をベットへ寝かせてくれた。なぜか嬉しいとは思わなかった自分がとても醜い人間に感じた。
熱いディープキスも抱擁も、マグロのようにうけとめることしかできない・・・
どうしてしまったのだろう自問自答しても答えが出てこなかった。

キスの最中うす目を開け彼の表情を見ている自分が異様に思えた。

なぜ?の繰り返しが頭の中を支配していた。
なぜ、あなたはそこまでやさしいの?
なぜ、なにも責めないの?
なぜ、病気のこと聞かないの?

マグロになった私の乳房をまさぐることもなく、私の性器に触れることもせず。
ただただ、やさしく髪をなでながら彼は深い眠りについた。
心とは裏腹に何故か私の花びらが濡れて体が反応していたのは確かだった。

同情なのか愛情なのか・・彼の行動に違和感を感じつつ、私は一睡もできなかった。

漂う心:明日は晴れるかな

病院から出ると外は大雨だった。
天気なんて最近気にもしていなかったので傘なんてもってない。

雨の中をずぶ濡れで歩くのも悪くない。コンビニの看板を見つけた時は久しぶりに嬉しいという感情が湧き出てきた。
ビールにありつける。
店員は怪訝そうに私をみたが、そんな事お構いなしにビールを数本購入。
家路へいそいだ。

アパートの鍵を開けると、いつもの現実がそこにあった。
すきで病気になったわけではないが・・・
部屋に入るなり、大粒涙が私を支配した。
急いでビールをのどに流し込み嗚咽の中、携帯片手に友人から単なる知人まで電話をしまくっていた。

同情してもらいたかったのだろうか。
訳のわからない言葉を発し、周りを混乱させたかたのだろうか。
今でもよく覚えていない。

漂う心:この薬で死ねますか?

坑不安剤、精神安定剤、睡眠薬。計4種類の薬が処方された

一応尋ねてみた主治医にである
「これ、みんな一度に飲んだら死ねますか?」
彼は表情ひとつ変えずに答えた
「そんな時代遅れの薬は処方しません」

「なんだ、残念だわ」
心の中でつぶやく私がいた

薬剤師のお姉さんは一生懸命、薬の服用の説明をしてくれたが
最近は薬の効能とか副作用とかの明細を書いてある紙を渡してくれるので
相も変わらず、ぼーっと聞いてる自分が怖かった

もう、他人とのコミュニケーションもできず、人格障害の烙印押された気になり
普通の人間ではなくなった自分の嬉しさとともに将来への不安が
津波のように襲ってきた

漂う心:病名「パニック障害 鬱病」

遠くから足音が聞こえてきた。
ベットの上で身動き取れない私の元へ医者が近づいてきた

「単刀直入に申し上げます」
癌の告知でもするような神妙な顔で私を彼は見つめた

「病名はパニック障害、それに鬱病も併発しております」
パニック障害?鬱病?

「自傷行為もございますが・・お一人暮らしですか?」
「はい」
「誰か・・たとえば恋人とか、そばにいてくれる方はいらっしゃいますか?」
「はい」

いくつも質問されたが、私には日本語に聞こえなかったようで「はい」と言う返事をくりかえしてたような気がする。

結論から言うと私は心が壊れてしまってるって事なのだと一応理解した。

「お薬出しますので待合室でお待ちいただけますか?」
さっきの可愛い看護師さんから言われ、よろよろとベットから降りた

漂う心:カウンセリングって・・・嫌い

開口一番に彼女は言った
「お風呂は入れますか?」
なんちゅう質問だ!正直、苦痛なのは確かである。
怖いのと、からだがだるいのと・・いろいろ理由をつけてお風呂に入れない日が続くこともある。
「入れません」正直に答えた。
やっぱり、彼女の表情がそういう風に見えた。
「では育った環境から教えていただきますか?」

とにかく、質問攻めである。
私生児である事
学生時代は優等生だったこと
離婚歴があること、その原因はDVであったこと
元夫の借金を肩代わりして自己破産したこと
娘が一人いるが、経済的理由で親権を放棄したこと
複数のセフレがいること・・・・

もうこれ以上質問しないで。私の心が爆発しそうだった
言葉が出なくなり、声にならないのである

メモに「もうかんべんしてください」とだけ書き席をたったが、フラシュバックで倒れてしまった

どのくらい時間が経ったのだろう
気がつくとベットに寝かされていた。記憶なし

「大丈夫ですか?」若い看護師が声をかけてきた
「はい」これ以上は言葉がでなかった。

漂う心:カウンセラー

久しぶりにシャバへ出てきた(笑)

ジャアージ姿で深夜、ビール数本とスナック菓子を買い求めるくらいしか下界に

降りてこなかったからなのだろうか、太陽の異様な輝きは私を又、不機嫌にするのだった。

少々足をふらつかせながらも病院へはたどり着いた。なぜか自分を褒めてやりたかった。

精神科(今では心療内科と呼ぶ方が多いらしいが)の扉は

私が思うほど、さほど重くは感じなかった。

受付を済ませ暫くすると白衣を着た女性が声をかけてきた。女医ではないようだ

「少しお話しましょう」さわやかな笑顔の彼女にそくされ個室へ入った。

彼女は、いわゆるカウンセラーという肩書きの持ち主であった

漂う心:封印を開ける

あれから数ヶ月が経った・・・・

会社は当然のごとく解雇された。布団に包まり蓑虫のような毎日が過ぎていった。

不安と恐怖、過呼吸という死神と同居していた。

時々友人が食料を持ち見舞いに来てくれたがあまり嬉しくもなかった。

拓也の訪問さえも断れるのなら断りたかったのだが、さすがに彼氏を追

い出す元気なども持ち合わせていなかったのだ。

ゴミで散乱した部屋をみられるのが恥ずかしかったわけでもない、あまり人と接触したくなかったので

ある。

死にたい・切りたい・飛び降りたい・・悪魔が毎日のように訪問してくる。

拓也が来てくれるより、なぜか愉快でたまらなかった。

作り笑いはもう限界に来ていた。

毎日能面のような顔で過ごすのがなぜか快感になっていたのである。

自殺願望が膨らみはじめ、左利きの私の手には いつも刃ものが握られていた。

右手首がぼろぼろになって初めて私は病気なのだと悟った。

封印されていた例の心療内科への招待状を持って病院へ行くこ

とにした。

漂う心:男への復讐

病院からはひとりでタクシーで帰った。

こんな奇妙な女とは付き合えないとばかりに彼はそそくさと逃げてしま

ったからである。

心療内科への招待状はわたしの部屋に届ける相手がいない手紙のように

ひっそりと眠っていた。

自分はまんじりともせず、抱き枕を友にアパートのこもり動けなかった

のだ。

又、いつあのような状態が訪れるのか恐怖で死神と同居しているような

自分にも酔いしれていた。なぜか心地よかった。

会社に対してもわたしが企画したプロジェクトを把握できずに右往左往

している男どもの顔を思い浮かべるたびに愉快でたまらなかった。わた

しは企画担当、プレゼンは男性社員・・・女が軽くみらるので男性社

員がプレゼンをする、暗黙の了解だった。ふざけんじゃねぇ・・平成の

時代に、おばかな会社だと心で叫びながら働いていた職場にはなんの忠

誠心もなかったのである。会社からのメールを遮断してからはなぜか、

心療内科への招待状はいらないと思い始めていた。

何度も拓也からメールがあったが、返信する弱いエネルギーが親指にさ

えもロックをかけてしまっていた。

漂う心:心療内科への招待状

病院に着いた時は、なぜか症状は治まっていた。

あんなに苦しい思いが平常心になっているのである。

検査の結果、何処も異常なし・・・どういうこと?

不可思議な自分の身体の宇宙生態にこれからやってくる侵略者の

足音に気づかずにいた。

「明日心療内科へ行ってください。紹介状をお渡しします」

唇の薄い冷たい印象の医者からの言葉が日本語に聞こえなかったのは

私の中の知ったかぶり女が顔を出したのだろう。

漂う心:それは突然に・・・・・

精液の匂いの充満するワンルーム・・・

SEXの後のたばこは恐いくらいおいしい。よく小説でそういうくだりを読

んだ事が記憶にある。ほっとしていた

狂おしいくらいの激しい行為のあとの言葉にできない安堵感。

しかし、その日の私は突然に動悸・胸痛・過呼

吸・号泣
、何者かに捕らわれたように発狂した。

死への恐怖感を生まれて初めて知った瞬間だった

「撥が当たったか」一瞬脳裏を掠めたのは恋人拓也の顔だった。

彼は救急車を呼ぶのを拒んだ。

単身赴任の身の葛藤が時間を止めてしまったのだ。

ここで救急車を呼べば彼のワイフの耳に入るのは確実なのだ・・「社

宅」での密会は想像以上に気を使うのである。

彼の車で病院へ・・彼の頬の汗が私の服に滲むほど暑い暑い日だった。

セフレの家での出来事・・・あれからもう4年の歳月がながれている

が、今でも鮮明に私の記憶に刻印され続けている。
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